GPS運行管理システム
GPSを利用した運行管理システムの導入~物流もITで変わる/2003年掲載
平成13年春、日本貨物運送協同組合連合会さんのホームページにてモニターを募集していたNTTコミュニケーションズさんのGPS運行管理システムを導入して早2年の歳月が経ちました。
GPS(Global Positionig System)とは全地球測位システム・・・衛星を利用し地球上での位置を測定するシステムのことです。
特定のパソコンやソフトを必要としないASPという配信方式は従来の専用機購入の必要がなく、またソフトの修正・改良の為のバージョンアップ(ソフトの入替)という作業等も必要とせず、特に専門知識を持ち得なくても導入にあたってはインターネットを観覧できる環境が事務所内にあれば、後は、簡易な車載機(受信機&発信機)を設置する事で即時利用可能なのです。
ASP(Application Service Provider)とはアプリケーション提供業者(2003年の時点)
中小企業では導入・構築の難しかった情報システム・技術・大規模ネットワーク等をレンタルしてくれます。
日貨協連ホームページ http://www.nikka-net.or.jp/
NTTコミュニケーションズ http://www.e-tra.net/
このNTTコミュニケーションズさんの配信するGPS運行管理システム『e-Transit』では、現在次のサービスが利用できます。
1、車両現在位置表示 全体車両の表示やグループ別の表示。また特定個別の車両を表示
弊社は、まだ車両が少ないのでグループ分けはしていませんが便利な機能です。2003年4月からは、特定個別表示車両の現在位置の天気まで情報提供してくれるようになりました。
2、車両走行履歴表示 車両の走行経路、時間を地図または文字にて表示
お客様に対して運行経路や時間をお知らせし輸送改善を行うにはとても便利な資料です。また、事故解析資料としても価値ある内容を表示してくれます。
3、所要時間検索機能 目的地までの最短ルートとその所要時間を算出し表示
4、最寄車両検索機能 目的地から近い順に車両を表示
5、道路交通情報表示 主要幹線道路の交通渋滞・規制等の情報表示
梅雨時期、降雪の時期など、いち早く配信される情報はとても便利です。
では、これらの最新技術を導入し、どう変わったかについてです。
まず運行管理とは、お客様のご依頼に応じ輸送を行うにあたりその輸送を安全且つ迅速に行うため適切な車両・乗務員を選任することです。いわゆる配車という仕事です。配車をコントロールするオペレーターを業界では配車係と呼んでいます。(運行管理者という国家資格です。)
運行管理者(配車係)の仕事は重労働です。
車両の種類や形状、積載量をひととおり把握し長距離輸送業であれば日本全国の地理を学習し且つ乗務員さん達固有の性質や保有資格を吟味し、お客様にとって、より最適な車両と乗務員を見極める技量が要求されます。
更に、これらを見極める為には個々のお客様の要求するニーズや貨物の性状・特性を知らねばなりません。時には学者の知識とお医者さんの目のようなものまで必要なのです。
毎日変化をともなう仕事割を構築するということはパソコンで言えば、四六時中デフラグをかけるようなものです。
お客様毎の輸送車両、人員の選択、その積込から輸送、納品、帰路までのスケジュールを組み、時に運行経路表を作成し作業指示書と照合する。乗務員が帰れば帰ったで、報告書や納品書の照合、お客様への終了の報告など。
また整備管理者と随時車両の状態を打合せ、更にはお客様の追加要求に備え、緊急対応車両や予備人員配置までと、気を休める暇がありません。
そのような運行管理者を補助すべく導入した『e-Transit』で次のような成果がありました。
運行管理者のメリット
1、道路状況による遅延発生が少なくなり、情報から迂回路の指示がスムーズにできるようなった。
やはり情報というのは大きな財産です。詳細な地図表示により運行車両の現在位置を容易に把握でき、到着を心待ちにされているお客様へ視覚的に報告できるようになりました。
更に周辺道路の規制情報などを知りえることで、到着予想時刻を予想でき、到着予想時刻が判ればお待ちになられているお客様も無駄な待機時間を浪費することなく他の作業にあたれます。以前は電話だけの報告でしたから、もうすぐ着きます(と、思います)のみの報告では、お客様も不安になってしまいます。
2、故障時等の緊急対応力の強化
危機管理能力向上は企業にとって最大課題です。これまで見えなかった情報が目視にて確認できるようになり、故障時等直ちに付近の代替車両を手配したり、修理業者への位置連絡等がスムーズにできるようになりました。
最近は携帯電話が普及し、より利便になりましたが昔は公衆電話も無い山の中で故障した時、乗務員さん達も大変でしたが、救援に駆けつける方も大変でした。
3、運行計画書や指示書の作成が楽になった。
担当者が行う運行計画書や指示書作成は非常に大変な作業です。今回のシステムでは、地図機能が素晴らしく、航空写真ベースで作られているものですから、建物の形まで映し出す新しい地図(2003年4月バージョンアップ)には驚かされました。
搬入先や積み込み先の事前調査も行うのですが、時間的に難しい場合は聞き取り調査、もしくはとりあえず行ってみてからということがしばしばであったのですが、現在では『e-Transit』から目的地を映し出し印刷後、取り出したりしています。また、搬入中の車両を投影し大工場の搬入状況を指示書化したりしています。縮尺30mまで拡大できます。
4、地図で表示する地域周辺の天気がわかるようになった。
当然ですが、お荷物を安全にお届けするために、運行する先々の天気情報が気になります。
2003年4月のバージョンアップでは地図機能の強化だけではなく、表示地域の周辺天気情報まで表示してくれるようになりました。これは非常に便利です。晴れなのか雨なのか、また、気温まで表示されます。
ウィング車はともかくとして、平ボディ車も多い我が社では、天気というのが運行管理者を悩ませるものでした。
乗務員さん達のメリット
当初は「覗かれている気がする。」という抵抗はあったようですが、雑務忙しい運行管理者が一々特定個人をストーカー行為するほど暇ではありません。初見で異常がなければ、通常業務にあたるものです。
1、遅れている場合の負担が軽くなった。
車の異常、故障、道路状況など、何らかの原因で遅れることがあり得ます。納品地のお客様が商品の到着を心待ちにしている場合や、中継地で他社の連絡運送会社を待たせている時って頻繁に連絡を取り合わなければなりません。
現在では、画面上で車両位置が特定できる為、事務所から乗務員さんに5分毎に電話する事がなくなりました。ただでさえ遅れている時に、何処にいるのか報告する義務はあれども、運転中に頻繁に電話の受け答えをするというのは乗務員さん達にとっても負担になります。また、それが原因で事故につながったのでは取り返しがつきません。
位置さえわかれば、どこどこですから、だいたいこれぐらいでと、事務所からFAXでのご報告をするなど、対応できるようになりました。
2、道に詳しくなくても安心
最新地図は素晴らしい機能です。我が社でも修行中の乗務員さん達はいます。みんなが全員全国走れる強者ばかりではないのです。地図を片手に調べながら走っている乗務員さん達も多いのです。
しかし、いくら地図を持っていても、自分自身がいったい何処にいるのかを理解していないとなりません。
昔は、高速道路のサービスエリアで無償配布されているような地図で走っていた時代もありました。熟練者達に聞いても自分で考えなきゃ覚えないからといった考えがありました。
ただ、もしもの時など携帯電話と『e-Transit』の地図機能をフルに駆使しながら運行管理者が誘導する事があります。とても便利で良い時代になったものです。
3、社員の福利厚生や給与の支給アップにつながる
運行距離や労働時間が給料の基礎とは言え、やはり最大に積載したトラックを回して効率を上げるのが、世界の輸送業界です。
当然ですが、過積載を助長するのではなく、現在の不景気でロットのまとまりがわるく積載効率上50%70%で走っているトラックも多いのが現状です。
軽いということ、それはそれで良い事なんですが、不景気のはじめの内は貸切だからと料金変わらないところの方が多かったのですが、こう不景気も長く続くと「きっちり7tだから安くして欲しい」や、「予算が取れなくて」というお客様が増えてきました。
こうした積載スペースを空いたままで走らせる余裕がなくなりつつある昨今では、予算の取れないお客様や、より低価格にての輸送のご要望にお応えする為に混載便が増えてきました。この混載をスムーズに行うためにも『e-Transit』のような情報サービスが大きいのです。
毎回ではないにしても立ち寄り個所が増え大変ではあると思いますが、積載効率を上げることで、僅かながら、その恩恵を会社も社員も受けています。
取り付けにあたっての注意事項
車載機の電源については、12vからでも24vからでも問題なしなのですが、エンジンを停止した際、確実に電源がオフになるように配線しないと24時間発信状態になります。GPS受信部にて受けた情報を2分感覚で発信機(PHS)がセンターに情報発信します。パケット料金とは言えども勿体無いです。
また、容易に取り付け取り外したいとは言えどもシガーライターソケットからは不味いようです。運行中に電源断状態になると折角の機能も発揮できず、ロスト状態になり画面上から消えてしまいます。
総合評価
このシステムは輸送業界にとって、様々なメリットがある、非常に優れたツールだと感じました。
物流のブラックボックスへメスを入れることは、パンドラの箱を開けてしまうことになるのかという危惧が無かったかと言えば嘘になります。
新しい物が好きであったとしても、先達の知恵や勇気で作り上げた現在の状態をあたってしまうには怖さも戸惑いもありました。それは経営者にとっても同じであったように、乗務員さん達やお客様達にもあったと思います。
成熟市場といわれている輸送産業において、生き残るという事を考えたとき、私達地域企業の存在意義とは何か?という問題に直面します。我々はお客様にとって本当に良いパートナーなんだろうか、お客様に今の時代に我々は何を返せるのだろうか。と問い掛けました。
低コストで高品質な同社のGPS運行管理システムを現状の運行管理方式に融合させ、より品質の高い輸送サービスの実現は、その答えを出すための第一歩です。